剣道 昇段審査 模範解答

剣道昇段審査学科試験(筆記試験)の模範解答例(参段・三段)

剣道参段(三段)昇段審査の学科試験(筆記試験)の模範解答例です。

 

年度によって出題の内容が異なりますので、他の段位の模範解答例もご参照下さい。

 

 

1. 剣道の目的と効果

 

1.剣道の目的

 

剣道は我が国の歴史とともに進歩発展してきた民族文化であり、祖先が必死の努力と工夫をもって、実生活の中で鍛練されてきたものである。
剣道を修行するには理屈ではなく、剣道そのものが実生活であり、精神の修養であり人格の修養であり、心と身の鍛練が目的である。

 

2.剣道の効果

 

わが国は、尚武の国といっていたが、それは単に斗争力としての武力ではなく、健全な真の平和を愛好する和と徳をそなえた武の精神である。
剣道を修行するものは、この精神と目的を把握し、日本民族独自の文化である剣道を修行すべきである。
その効果としては次のようなものがある。
(1) 身体を強健にし、動作を敏速活発にする。
(2) 姿勢が正しくなり、態度が落ち着き、風格を備える。
(3) 判断力、決断力が養成される。
(4) 積極性、勇気、沈着、自制、寛容、忍耐などが養成される。
(5) 相手の立場を尊重し、礼儀を守り、公正、真剣に競技する態度を養成する。
(6) 剣道についての知識、技能を身につけ、進んで剣道を楽しむ態度、習慣を養成する。

 

 

2. 5つの構えの要点について

 

1.中段の構

 

A 足の踏み方

 

両足の爪先を前方に向け、左右の開きは約一握(約5cm〜10cm)の程度にする。
右足を左足のつま先の線上に出す。左足のかかとは自然に上げ、右足のかかとは軽く踏む。
重心は両足の中心にかけ、膝は自然にし(曲げすぎず伸ばしすぎず自然に)、踏み切りやすいようにする。

 

B 竹刀の持ち方

 

左手は柄頭いっぱいに持ち、小指、薬指m中指の順に強く締め、他の指は軽くそえる。
左手の位置は、へその前下約1握りのところでよい。
右手は鍔に触れない程度に、いっぱいに持ち、左手の要領で握る。
左右の親指と人差し指の割れ目が弦の直線状になるよう手首を軽く曲げて、そのまま打突できるように持ち、両脇も軽くあける。

 

C 剣先の高さ

 

剣先は相手の喉の高さ(または延長が眉間または左目)につける。

 

D 目のつけ方

 

目付けの項参照

 

E 上体の位置

 

丹田(下腹)に力を入れて、首筋を伸ばし、肩の力を抜いて腰を入れ、安定させる。
呼吸は複式で小さく静かに行う。

 

2.上段の構

 

諸手左上段は左足を前に踏み出し、刀を頭上にあげ攻撃的な構えである。
左こぶしの位置は、額の前(おでこと髪の生え際の境目のところ)約1握りのところで、左足のつま先の線上にとる。
刀は左へ体とほぼ45度にとり自然体となる。剣先は正中線上で前向きとし、わずかに右に偏してもよい。
丹田に力をこめ、相手を飲む気迫が必要である。天の構えまたは火の構えともいい、相手を焼き尽くすような強い攻撃力を持つ構えである。
右上段は右足が前で、剣先は正中線を外れぬようにして、他は左上段に準ずる。

 

3.下段の構

 

剣先を相手の膝頭より約5cmから6cm下につける。
守りの構えであって、地(または土)の構えともいう。
気位は水の心であって冷静で澱まず、常に自己を守り相手を監視して、自由に対応できる構えである。

 

4.八相の構

 

左上段の構えから、そのまま右拳を右肩の辺まで下ろした形で、鍔を口の高さにして口からほぼ1握り離す。
左半身となり刃は相手に向ける。
中段の構えから左上段にとる要領で、左足を踏み出しつつ、大きく構える。
この構えは相手の出方によって、攻撃に変化する構えである。
陰の構えまたは木の構えともいう。

 

5. 脇 構

 

右足を後ろに左半身となり 、刀を右脇に剣先を後ろにして、刃は右斜め下を向け、刃先は下段より少し低くとる。
構える時は、中段より右足を引きつつ大きく右脇にとり、特に刀身が相手より見えぬように構える。
右手首ほぼ袴の腰紐の位置につけ、左拳は臍の右横1握りの位置にとる。
陽(または金)の構えともいい、脇下をねらって打つのが常法であって、攻撃的な構えである。
<構えを解いた姿勢>
剣先は自然に相手の膝下に右斜めに下げ、刃は左下方に向ける。
この際剣先は、相手の体を外れない程度(相手の足の外側程度)に開く。
左拳の位置を下げないほうがよい。

 

 

3.剣道形の効果

 

1. 礼儀が正しくなり、落ち着いた態度が身につく。
2. 姿勢が正しくなり、観見の目が効くようになる。
3. 技術上の悪い癖を取り除き、正しい太刀の使い方を覚える。
4. 動作が機敏になり、間合の取り方を覚える。
5. 気合が練れて、気魄が充実する。
6. 様々な心技両面の理合いが習得できる。
7. 気品や風格が備わり、気位も高まる。

 

この剣道形を練習することによって、剣道の基本となる手足のさばき方、気合、間合、呼吸、打突の機会を習得することができるのである。
剣道練習に際しては、つとめて剣道形を実施し、剣道の練習や試合に応用できるよう心がけることが肝要である。

 

 

4.有効打突

 

有効打突とは、真剣勝負においては、相手の抵抗を抑圧するに足る打突であればよいと解するものであるが、現在の剣道場の有効な打突とは、剣道試合規則第17条にいうものである。

 

1.充実した気勢、適法な姿勢での打突で、残心のあるもの。
(気剣体の一致した打突)
2.「竹刀」の打突部で打突部位を刃筋正しく打突し、または剣先で突くこと。
(打突部での打ち、剣先での突き)
3.打突の部位を、それぞれ正確に打突すること。
(指定された部位の打突)

 

以上3つの要件を完全に具備した場合に有効な打突となる。また方手の打突、追い込まれながらの打突は、特に確実なもののみ認められる。

 

※なお、次の場合における正確な打突も有効となる。(試合の場合)

 

(1) 「竹刀」を落とし、または倒れた者に、直ちに加えた打突、あるいは倒れた者が直ちに加えた打突。
(2) 場外に出ると同時に加えた打突。
(3) 試合時間終了の合図と同時に行われた打突。

 

※次の場合は有効打突としない。

 

(1) 相打ちの場合。
(2) 剣先を相手の上体前面に突いて、相手を制している場合。

 

 

5.一眼二足三胆四力

 

古くから剣道修行上の要訣とされている言葉である。

 

(1) 第一は眼である。
 剣道修行は技術の修練が表面に出てくるが、真の目的は精神の鍛練であり、技術はその手段にすぎない。
 技術と技術の戦いというより、結局は心と心との戦いである。
 その心を最もよく現すものが眼である。
 相手のどこを見て動静を察知するかということは、目付けといって重要視されている。
 この眼力を養うことが最も大切である。

 

(2) 第二は足である。
 すべての動作の基本である姿勢の根底となるものが足である。
 足の踏み方、さばき方を常に正しくして、無意識にできるようになっていなければ真の技にはならない。

 

(3) 第三は胆である。
 剣道に必須の気力、意志力、忍耐力、持久力を生ずる根本は、胆力である。
 この胆力を養うことによって驚櫂疑惑の念を去り適切な判断力と果敢な実力を働かし、機先を制して勝利を得ることができるのである。

 

(4) 第四は力であり、力とは技術を意味する。
 技術は第四といっても、技術の練達がなくては、剣道の上達もあり得ない。
 眼、足、胆、力 が一体となり、心技体の一致練磨をはかり、一切の邪念を去り、素直な気持ちで教えに従うことが剣道上達の根本である。

 

 

6.残心の必要について

 

残心とは、相手に打突を加えた後、心をゆるめることなく、相手がどのような動作に出ても、十分にこれを制することができる心の用意をいう。
つまり十分に打突したと思っても、それが不十分のため相手が立ち直って、打ってくるかも知れない、また相手がどんなところから打ってくるかも知れない。
どのような場合にも、直ちに相手を制圧できる用意をしていることを、残心というのである。

 

残心とは残す心でなくて、残る心である。残心を分けてみると
(1) 打突の際、心残りなく無心で打突する。
(2) 打突後に油断のない心を残す。

 

つまり、はじめから心を残して打突すれば、そこに心が留まって隙を生じ、相手に反撃され敗れることになるのである。
従って全力をあげて心を残さず、無心で打突することにより、十分な打突ができ、打突した瞬間、自然に備わる相手に対する心構えが残心である。
初心者はどうかすると、稽古や試合中において、打突したときに早くも気を緩め体勢や構えを崩すものであるが、これは残心が無いためである。
残心が無い時には、打突した太刀も死物となるので、残心が大切であり必要であるといわれる。

 

 

7.気合

 

気合とは全身に気力を充満して、少しの油断もなければ邪念もない。
すなわち気合は、無声の気合、有声の気合をとわず、全身に充満した気力と心とが一致した状態であって相手にすきを与えないと同時に、相手にすきがあれば、直ちに打ち込んでいける状態をいう。
剣道においては、相手が絶えず心と気分を乱しにくるので、なかなか精神の統一が難しいが、長年の稽古により心と眼とを養うことによって、心と気力が絶えず統一され、満々たる気合が生じてくるのである。
初心の者は有声の気合、すなわち「ヤー」「トー」などのかけ声を出すことによって、内に充実した気勢がこの声によって力を増し、打突にも勢いが加わり、相手に威力を感じさせるのである。
更に練習を積み重ねることにより、この有声による気合から無声の気合となっていくように、修練の向上の度合いによって変わってくるのである。
すべて「外に表れる気合は疲れ易く、うちに蔵する気合は疲れにくい」と言われる。
真の気合は、修練を積み重ねることにより、自然に得られるものである。

 

 

8.打突の機会

 

打つべき機会はいくつもあるが、その主なものは、おおむね次の8つであろう。

 

1.出 頭 (起り頭)
相手が動作を起こそうとするところを打つ。

 

2.受け止めたところ
相手の打突に対して受け止めることは、打たれないが、また打つこともできない。

 

3.尽きたところ
尽きるとは、体力または気力が尽きるとか、技が尽きることをいう。
その尽きたところを打つ。

 

4.実を避けて虚を打つ
相手が注意を払っているところは実で、強いところであり、これを避けて虚である弱いところを打つ。

 

5.急がせて打つ。

 

6.居付いたところ
心の動きが一時停止して臨機応変の活動を失い、動かぬところを打つ。

 

7.狐疑心が生じた瞬間
狐疑心とは、疑惑する心をいう。その心が生じた瞬間を打つ。

 

8.その他、息を深く吸うところ、四戒(驚懼疑惑)の生じたところを打つ。
なお1.2.3.は最もよい機会であるので「3つの許さぬところ」といわれている。

 

 

9.捨身

 

「山川の瀬々に流れる栃殻も実をすててこそ浮かぶ瀬もあれ」
山川の瀬々に流れる栃殻も、中の実を捨てた時に初めて浮かび上がることのできる機会があるという意味である。
これと同様に危険な場合に直面した時、身を捨てる覚悟で全力を尽くして事に当たれば、思わぬ力が生まれて活路を見出すものである。
断乎として行えば鬼神もこれを避けると言われているように、身を捨てて大胆に踏み込み打突してこそ、初めて立派に勝ちを得ることができる。
しかし相手の隙もないのに、ただ身を捨てて打ち込んでいくのは、無謀であって真の捨身とはいえないのである。
隙を発見したら、直ちに敢然として打ち込んでいくことが、真の捨身である。

 

 

10.不動心

 

不動心とは、いかなる場合であっても泰然自若として、心を動かすことのない状態をいう。
人は平生と異なる場合、必ず心に変化が生ずるものである。
例えば公衆の面前とか、畏敬する人の前に出る時など顔色が変わったり、緊張したりして何か言うことがあっても思うことの半分も言えないなど、平常の心を失うことは、よく経験することである。
剣道を学ぶ者が勝負に臨む時などは、平常の心に動揺が生じるものである。
真剣勝負などともなれば、なお更のことであろう。それゆえに心胆を養い、物事に動かされない心を持つよう常に工夫しなければならない。

 

 

11.心気力の一致

 

格技においては、この心気力の一致は欠くことのできない重要なことであるが、剣道においては、特に必要なものである。

 

・心=知覚、判断する心の静的なもの
・気=意志、活動を起こす動的なもの
・力=五体(自分の身体全体)の力、竹刀で打ち突き、踏み込む力

 

この三つが、完全に一致(集中力)した動作が初めて正確な技となる。
この心気力がなくては剣道の技は成り立たない。この心気力三者は、瞬間に同時に働いてこそ、真に有効な打突がができるのであり、もしこの三者が別々になったり、あるいは何か一つでも不十分であれば、決して立派な活動ができず、有効な打突もできなくなるものである。
いつどんな場合でも、三つが一致して働くよう心がけなければならない。
気剣体、心眼足という言葉と内容的には同じである。

 

 

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